江戸川乱歩の作品を読むのが好きです。
僕の勝手な印象ですが、乱歩の文章には、どこか「欲求不満」な感情が漂っていて、精神的に健康な人が書いた文章とは、とても思えない独特の雰囲気があります。
例えば、犯罪の結果(人を殺めることなど)よりも、犯罪を行うことそのものに魅了される人間の狂気の表現など。
ですが、とても耽美で深い、異世界にいざなってくれます。
僕が乱歩にハマるきっかけになったのが、
「江戸川乱歩傑作選」(新潮文庫)
です。
乱歩のデビュー作「二銭銅貨」を含めた、乱歩の傑作短編が収録されており、この1冊を読むだけでも、「乱歩世界」を十分堪能できると思います。
【収録作品】
「二銭銅貨」/「二癈人」/「D坂の殺人事件」/「心理試験」/「赤い部屋」/「屋根裏の散歩者」/「人間椅子」/「鏡地獄」/「芋虫」
この中でも、僕は「人間椅子」が大好きです。
椅子職人が、自分が作った大きな椅子の中に入り込んで「椅子」になりきり、その椅子の上にすわる婦人の体の感触を秘かに楽しむ、といったような感じの、ちょっと聞いただけでは、「単なる変態では?」と思うような作品です。
また、「屋根裏の散歩者」や「D坂の殺人事件」なども映像化されている有名な作品です。
「推理小説」として乱歩作品を読もうとする人がいると思いますが、緻密なミステリ作品が出揃ってしまった今日現在となっては、その読み方は、ある意味で、あまり面白くない読み方だと言えるかもしれません。
乱歩自身、自分の小説のジャンルを「探偵小説」と言っているので、いわゆるミステリ小説的な要素はたくさんあり、話の軸にもなっているのですが、やはり昔のトリックなので、今読むと、トリックとしては物足りなさを感じるものも少なくありません。
そのかわり、乱歩の魅力は、犯罪者などが持つ狂気などを表現した独特な世界観や、幻想的な世界観にある、とも言えます。
この「江戸川乱歩傑作選」には収録されていませんが、独特な世界観という点で、「盲獣」という作品は見逃せません。
「盲獣」は、盲目の老人が、あらゆる「触感」の快楽をもって、自分の好みの女性を自分の虜にしてしまう、といったような作品で、完全に異常性欲のジャンルにおよんでいると言えます。
また、幻想的な世界観という点で、「孤島の鬼」という作品もお薦めです。
解説不要の傑作長編なので、少しでも乱歩世界にハマってしまった方におすすめです。
現在は、児童向けに書かれた「怪人二十面相」などの作品群を少しずつ読んでいます。まだまだ楽しませてくれそうです。